2003年6月4日水曜日

著作権のコモンセンス(はじめに)

はじめに

2003年6月4日

著作権法は、法律の中で最も意味不明な法律の一つで、ハッキリ言えば、これくらい魑魅魍魎とした、いかがわしい法律はありません。

その最大の理由は、著作権法の出自(生まれ)のことを終始一貫隠し続けている点にあります。世の中には著作権法はクリエーター(著作者)、アーティスト(実演家)の権利を守る法律だと思っている人がいますが、それは真っ赤なウソです。著作権法はそもそも芸術・文化とは直接何の関係もありません。著作権法が誕生したのは、活版印刷術というコンテンツの大量複製を可能にしたテクノロジーが出現したからです。活版印刷術以前から、世の中には芸術・文化はごまんと溢れていたけれど、誰ひとり一度も著作権法が必要だと声をあげた人はいませんでした。

くり返すと、著作権法は芸術・文化の創造者である著作者らを保護するために作られた法律ではなく、テクノロジー を保護するために作られた法律です。著作権法とは、著作物の大量複製を可能にしたテクノロジーが出現した時、このテクノロジーを用いた著作権ビジネスの経済秩序を維持するためのシステムとして登場したのです。だから、著作権法とは、あくまでも著作権ビジネスの主人である産業資本家が自分たちの望む経済秩序を、著作権ビジネスの脇役・下働きの者たち(すなわちクリエーター(著作者)、アーティスト(実演家))に押しつけるためのものです。これは、著作権法の誕生した歴史を紐解けば一目瞭然です(その詳細はこちら)。なおかつ、この本質は近代市民革命を経ても何一つ変更されることなく、その陰微な前近代的本質は今に至るまで綿々と続いています。しかも、今や人々の前には、この著作権法の出自すら用意周到に隠蔽されているのです。

 その結果、いつも、著作権法の表向きの美しいコトバ「著作者らの権利を保護する」とは正反対の、「強きを助け、弱きを挫く」著作権法の前近代的な隠微な本質が温存され、この永遠の欺瞞をめぐって、一度も真正面から議論されたためしがないのです。だから、著作権法の議論はいつもうわべだけのもので、問題の本質的な解決には1ミリも近づけないでいます(その意味で、これほど論争が深まらない、うんざりするくらい面白くも何ともない法律はほかにはありません)。

その結果、本来なら、著作権法により正当なポジションが与えられ擁護されて然るべき人たちが、「偽善法」或いは「法律のアフガン(世界最貧民の法)」ともいうべき著作権法のために、不当な悲惨な立場に追いやられています。それが、クリエーター、アーティスト(生産者=労働者)の人たちであり、エンドユーザ(消費者)の人たちです。これは著作者個人の問題ではなくて、著作権法システムという構造的な問題です。

そして、以上の構造的な問題が、一方で、著作権ビジネスの主人である産業資本家(テレビ局、映画会社、出版社など)と著作者との間でゴタゴタが永遠にくり返され、他方で、著作物の作成過程で他人の著作物を参照・利用したをめぐって著作者同士の間の著作権紛争がくり返される根本的な原因となっています。そして、著作権法は、1980年代から毎年せっせと改正をくり返してきたけれど、この間に、著作者が「加害者にも被害者にもならないために」著作者を守ってくれるルール作りを一度も誠実に考えたことはなかったし、このままなら今後も永遠にないでしょう。著作権法にとって、著作者の創作上の苦悩なんてどうでもいいことなのです。

しかし、「法律の起源」という問題に立ち返った時、ルール(法律)とは国家が国会を通じて作る制定法だけが法律ではありません。もうひとつの法律があります。それが「生ける法」と呼ばれる生成法です。生成法とは市民集団が社会生活の中で自生して形成していくルールのことです。その本質は「市民同士の合意」にあり、制定法が制定者と市民が上下(垂直)の関係にあるのに対し、生成法は制定者と市民は対等(水平)の関係にあります。

生成法は、市民の意識に支えられ、市民の現実の行動を支配するものとして見出される。それが「生ける法」。これが社会をリードする、と。 「生ける法」の提唱者のエールリッヒはそう考えました。

この意味で、私たちは「制定される法」と「生ける法」との二重権力状態の中にあります。1917年のロシア革命前夜だけが二重権力状態なのではありません。そして、市民が生成する「生ける法」こそ社会をリードするのです。

このコーナーは、本来なら、著作権法の主人公であるはずのこうした市民(クリエーター、アーティスト、エンドユーザ)の人たちに、これまで一度も真正面から議論されたことのない「著作権のコモン・センス」を公開し、著作権法の理念どおりに、価値を創造する著作者こそ文字通り著作権法の主役に復帰するという主客転倒に向けて、一歩を踏み出そうと願うものです(その詳細は>こちらのメニュー「著作権のコモン・センス」まで)。