2013年3月25日月曜日

他人の著作物の映画への利用について(2013/03/25)

2通のメール、ありがとうございました。

作品を拝見させていただきました。

この問題に対する私のスタンスは単純でして、「くだらない作品だったら、著作権侵害あり。そうでなかったら、著作権侵害にならない、」。

で、鑑賞後の結論は、著作権侵害にならない、と(^_^)。

まあ、半分冗談みたいな結論ですが、その理由はおいおい述べるとして、最初、今回の問題の整理をします。

◆今回は、原則論として考えた場合、次の2つの問題があって、その2つがゴッチャになっている節があります。

1、卒業制作において他人の著作物の利用について
 これは自由にできます。教育の場合、例外的に、著作権法35条1項で 自由な利用が認められているからです。

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著作権法第35条第1項 学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における使用に供することを目的とする場合には、必要と認められる限度において、公表された著作物を複製することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

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2、しかし、プロの映像人を養成する映画学校は、他方で、プロとなった時に、どのよう な著作権処理をすべきかまで、教える必要があります。その意味で、
「プロの作品を作る」積りで、著作権処理のあり方を正しく実行する必要があります。

つまり、法律的に言えば、卒業制作で、他人の著作物は自由に利用してよく、許諾を得ないからといって、著作権侵害の責任は発生しません。
しかし、教育的見地からすれば、将来、プロとして作品を作る場合、どのようなときに、どのような著作権処理をすべきかを学ぶ必要があるという意味で、許諾の要否について、考えておく必要があります。

◆次に、原則論は以上でいいのですが、今回は、単純な卒業制作と言えない場面があります。それが、教育の最後に行う、卒業制作の上映会です。ここには無料とはいえ、一般人向けに上映する からで、このような場合には、上記の著作権法35条1項の「その授業の過程における使用に供することを目的とする場合」から逸脱すると思います。

その結果、上映会では著作権法の原則に戻ります。
では、すべて許諾を取らないといけないのか?ですが、取らなくてもよい場合があります。
それが、著作権法32条の「適法引用」に該当する場合です。

学術論文の場合が典型ですが、そこでは他人の著作物(論文や作品)を自由に引用できます。だとしたら、映像の卒業制作でも同様ではないか。
ここで、適法引用が成立するかどうかの判断が問われますが、最終的には、これは一種のコモン・センスで判断するしかありません。そのコモン・センスを導くキーワードは、作品の創造性の強さで す。なぜなら、文芸評論家の小林秀雄が、他人の作品を論評する「批評」の本質について、批評するとは他人の作品をダシに使って自己を語ることである(1930年「アシルと亀の子Ⅱ」)と喝破しましたが、引用が適法かどうかも同じことだからです。
創造性が強い作品なら、少々、荒っぽく、他人の作品を取り込んでいようが、これもまた素材として取り込んでいるだけ、つまり引用だと言えるでしょう。

今回の作品を観て、最初、オタクの映像かと思いましたが、途中から、そうでないことが分かり、藤沢嘘の絵からキャラが消えたとき、やった!と思いました(なぜ消えたのか、もっとストーカー的追及があったらもっとよかったですが)。

その意味で、この作品に登場する他人の著作物は、基本 的に、適法引用でカバーできるのではないかと思いました。

ただ、適法引用に関する裁判所の判断は、実は混迷しています。はっきり言って、裁判官もよく分かりません。グレーゾーンの宝庫みたいな領域だからです。参考までに、それに関する文献を添付します。

私が今でも、印象に残っているのは、メディアアーティストであるインゴ・ギュンターの作品を観たときです。
http://www.shift.jp.org/ja/archives/2001/08/ingo_gunther.html

かれは、他人の著作物を平気で使います、自分の主張やメッセージを全く使わずに全編、他人の著作物のパクリで出来ている作品すらあります。
しかし、彼の独自の編集により出来上がった作品は元の映像にはない独自のものが表現されています。ここまでインパクトが強いと、これを著作権侵害と言うことができないのではないかと感じます。そうした事例が、何が適法引用の判断基準なのか、その基準をぐらつかせています。
この混迷について、最近の文献を添付します。

最終的には、作家自身が、自分の信念で決めるしかないと思います。

これが表現の自由と著作権の保護との衝突の最終的な決着の仕方です。

これについ ての1頁の参考情報も添付します。

以上を参考にして、再度、以下の回答を構成していただけたら幸いです。

追伸
私にとってXさんの作品がインパクトがあったのは、○君のお母さんがが、彼が白血病から生還したことでした、それが絵に夢中になることと深い関係があるように思えてならなかったことでした。
それが、いま、福島の子どもたちの白血病への脅威と重なりました。
http://fukusima-sokai.blogspot.jp/2013/02/blog-post_5456.html

At 16:04 13/03/21 +0900, ×××× wrote:
> 柳原敏夫 様
>  
>  
> はじめまして。
> 私は日本映画学校映像ジャーナルゼミ3年の副担任をつとめております、××と申します。
>  
> この度は、卒業制作の著作権についてのお願いをお聞きしていただき、ありがとうございます。
>  
> 本日、監督の××から本編映像のDVDと関連資料を郵送させて頂きました。
> 念のため、データもお送り致します。
>  
> 郵送した物の中に、今回問い合わせのきたメール内容を同封いたしましたので、そちらをまずはご参照頂ければと思います。
>  
> そして、今回の問題としましては、そのメールに学校としてどのような内容の返事を書くのか、という事です。
>  
> 下記が私が素人ながら書いたメールの返信内容になりますので、そち らに修正などがございましたら、ご意見をお伺いできればと思っております。
>  
>  
> 何卒、よろしくお願い致します。

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