2016年1月25日月曜日

他人の著作物(文章・写真・動画・図表など)の自由利用の仕方について(2016/01/25)

 皆さんがブログやチラシに文章を書く機会がこれからますます増えると思いますが、
その際、他人の著作物(文章・写真・動画・図表など)を自由に(言い換えると、無断で)利用したいなと思うことが多々ありますが、それは著作権の原則(他人の著作物を勝手に利用してはいけない)の例外にあたるので、例外の要件を満たすようにする必要があります。

以下は、この問題で、10年前に生井さんから受けた質問に対する私の回答です。基本的には今も変わりませんので、参考にしていただけたら幸いです。

結論だけ書くとこうなります。
著作権法32条の適用引用に該当すれば、他人の著作物(文章・写真・動画・図表など)を自由に利用できる。
そのためには、次の要件をすべて満たすことが必要です。
(1)、引用する資料等は既に公表されているものであること
(2)、引用の目的:「報道、批評、研究等の目的」で他人の著作物の全部又は一部を自己の著作物中に採録すること
(3)、引用の方法:自分の著作物と引用する著作物とを明瞭に区別すること。
(4)、右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められること.
(5)、出所の明示:その複製又は利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により、明示すること。

文化庁の解説
http://chosakuken.bunka.go.jp/naruhodo/answer.asp?Q_ID=0000581

引用された著作物の著作権者は、適法引用の場合には、自由に引用されても文句が言えませんが、適用引用の要件を満たしていない場合には、著作権侵害として差し止めや損害賠償を請求できます。

それでこじれた有名な事件が、
藤田つぐ治夫人と小学館の出版差止裁判(末尾を参照)と、
小林よしのりが彼の『ゴーマニズム宣言』を批判した書籍を適法引用に当たらないから著作権侵害だとして出版差止を求めた『脱ゴーマニズム宣言』事件。
東京地裁で小林の完敗の判決、東京高裁で、実質、小林の負けの判決。
東京地裁判決。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/663/013663_hanrei.pdf

東京高裁判決。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/161/013161_hanrei.pdf

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Subject: Fwd: 著作権との不具合が無ければ…

生井さん
皆さん

こんにちわ、柳原です。

さっそくに、発言(発現)、ありがとうございました。

それで、先日、DMでいただいた件ですが、ほかの皆さんにも参考になると思いましたので、ここにアップします。


>From: Hyoji NAMAI 
>Date: Sat, 22 Jul 2006 18:28:59 +0900
>To: Toshio Yanagihara 
>Subject: 著作権との不具合が無ければ…
>
>柳原 敏夫 様
>
>先日は、新潟行きご苦労様でした。
>
>さて、今ひょっと思ったのですが、
>先日の私の講演資料を表題の問題が
>なければ、「禁断の科学裁判」の
>適当なところへ使っていただいて
>良いのではないでしょうか。
>
>問題点は、講義や講演会、勉強会の
>テキストには、出典を明示すれば、
>自由に使えることは知っていますが、
>そのテキストをHPに入れる場合は
>どうなるかが私には分かりません。
>多分、引っかかるのだと思いますが、
>問題の箇所は16頁以降の図表です。
>
>著作権に超強い柳原さんのご意見を
>伺ってから対処したいと思いますが、
>いよいよの時は図表を省略しても良い
>と思っています。
>
>いかがでしょうか。
>
>なまい
>----
>Hyoji NAMAI  

原理的には、講義や講演会、勉強会のテキストに転載する場合と、HPにアップしたテキストに転載する場合とで変りはありません。いずれも、著作権法32条の適法引用の要件を満たしているかどうかで決まります。

そして、この要件を満たしているかどうかは、その業界によって変ってきます。つまり、その業界で通常、まかり通っている引用の程度なら、今回もOKです。

私の見た限りでは、生井さんのテキストは、学会の中でと同様のやり方に従ってやられているように見受けられました。
もし、学会で通用する引用のやり方を取っておられるのであれば、今回もOKです。

その点だけ、確認して、HPにアップさせていただこうと思います。

ちなみに、以下は、以前、神山さんからの質問で、著作権法32条の適法引用を述べたものです。
長文ですが、ご参考までに。


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神山 さま

おはようございます、柳原です。

メール、ありがとうございました。

>著作権のことで教えてください。ある若いフリーのライターが健康食品につい
>て本を
>書いています。この中に健康食品産業新聞(?)という業界紙に掲載されてい
>た健康
>食品の品目数、市場規模などを根拠を示して引用したいと思って、聞いてみた
>ら、著
>作物使用申込書が送られてきて、許諾を得る必要があり、使用料も請求される
>らしい
>のです。朝日新聞などなら私もそのまま本に引用していますけれど、業界紙は
>別とい
>うことがあるのでしょうか。神山美智子

これは、ちょっとカッコつけて言いますと、
自由に引用してもいいという「適法引用」に該当するかどうか、という著作権法32条の問題です。

この論点だけで、ゆうに一冊の本が書けるだけのボリュームのある論点なのですが、今回の場合がこの「適法引用」に該当するかどうかは、実際の文章を見てみないと何とも言えません。

それで、どうすれば「適法引用」に該当するようにできるか、についての一般的な指針をお伝えします。

とりあえず、以前、市民運動のHP作成者から同様の相談を受けて、回答した以下のコメントを参考にしておいてください。

また、この種の引用で有名な判決を添付しておきます。

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>HP作製の準備をしているのですが、海外の市民運動のHPの面白そうな
>のを要
>点翻訳して、転載したいのですが、その場合著作権はどのように発生しますか。
>著作権が発生しないような掲載の仕方はありますでしょうか?教えてください。

まず、著作権法の基本的な考え方ですが、
1-1、他人のHPに発表された情報は、(どんなくだらない内容であろう
と、その表現が創作的なものと評価される限り)原則として著作物に該当しま
すので、これを無断で利用(複製・頒布など)することはできません。この考
え方は、日本のみならず世界の殆どの国のHPの情報について妥当します。
1-2、但し、他人の著作物を個人で私的に利用する分には、複製(ダウン
ロードなど)は認められています。

2、ところで、自分のHPに情報をアップするということは、その過程だけみ
ていると一見、個人的な利用なのではないかという印象を持ちますが、そうで
はなく、まさに全世界に向けて情報発信しているわけですから、他人の著作物
を自分のHPにアップすることは、上の1-2ではなく、1-1の場合に該当
します。つまり、他人の著作物を無断で自分のHPにアップすることは、著作
権法違反となります。

3、以上のことは、単に、他人の著作物をそのまま自分のHPにアップすると
いう利用(複製)の場合のみならず、他人の著作物を翻訳して自分のHPにア
ップするという翻案的利用の場合にも該当します。

4、そこで、今回のような場合は、翻訳したいと思っているサイトに問い合わ
せて利用の許諾を得ることが原則として必要になります。
 もっとも、予め、そうしたサイト自身が、「ほかのサイトで、転載してもO
K」といった断り書きをしている場合にはもちろん自由に転載できます。

5、しかし、利用の仕方によっては、なお、このような許諾を得なくても、自
由に利用できる場合があります。
その典型が、適法引用の範囲で利用する場合のことです。文芸批評家の批評等
で、批評のために他人の作品を引用する場合には、いちいちその作品の著作権
者の許諾を得ずに引用することができるのです。

ただし、問題は、いかなる場合に、これが適法引用になるかでして、この基準
をめぐって、これまでいろいろな裁判があったくらいで、一義的に明確な基準
を言うことはなかなか困難です。

 最も参考になるであろう判決として、藤田つぐ治の絵の引用をめぐって、夫人が画集を出版した小学館を訴えた裁判の判決を引用しておきます。

 例によって、裁判特有のお経のような分かりにくい文章ですが、要するに
は、引用が適法というためには、
(1)、報道、批評、研究等の目的で他人の著作物の全部又は一部を自己の著作物
中に採録すること
(2)、全体としての著作物において、その表現形式上、引用して利用する側の著
作物と引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することがで
きること
(3)、右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められること


<著作権法第三二条第一項は、「公表された著作物は、引用して利用すること
ができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであ
り、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれる
ものでなければならない。」と規定しているが、ここに「引用」とは、報道、
批評、研究等の目的で他人の著作物の全部又は一部を自己の著作物中に採録す
ることであり、また「公正な慣行に合致し」、かつ、「引用の目的上正当な範
囲内で行なわれる」ことという要件は、著作権の保護を全うしつつ、社会の文
化的所産としての著作物の公正な利用を可能ならしめようとする同条の規定の
趣旨に鑑みれば、全体としての著作物において、その表現形式上、引用して利
用する側の著作物と引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識
することができること及び右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係がある
と認められることを要すると解すべきである。そして、右主従関係は、両著作
物の関係を、引用の目的、両著作物のそれぞれの性質、内容及び分量並びに被
引用著作物の採録の方法、態様などの諸点に亘って確定した事実関係に基づ
き、かつ、当該著作物が想定する読者の一般的観念に照らし、引用著
作物が全体の中で主体性を保持し、被引用著作物が引用著作物の内容を補足説
明し、あるいはその例証、参考資料を提供するなど引用著作物に対し付従的な
性質を有しているにすぎないと認められるかどうかを判断して決すべきもので
あり、このことは本件におけるように引用著作物が言語著作物(富山論文)で
あり、被引用著作物が美術著作物(本件絵画の複製物)である場合も伺様であ
つて、読者の一般的観念に照らして、美術著作物が言語著作物の記述に対する
理解を補足し、あるいは右記述の例証ないし参考資料として、右記述の把握に
資することができるように構成されており、美術著作物がそのような付従的性
質のもの以外ではない場合に、言語著作物が主、美術著作物が往の関係にある
ものと解するのが相当である。>

従って、もしこの適法引用を使いたかったら、上の3つの条件を満たすよう
に、他人のHPの情報を利用すればいいのです。その際、最も大事なことは、
3の条件=主従関係を満たすことです。つまり、引用する他人の著作物があく
までも自分の著作物の説明、展開のために必要不可欠であり、なおかつ必要な
限りでそれが引用されていることという条件を満たしていることです。
ですから、単にこんな情報がありますよ、という紹介の目的では、もちろんこ
の条件は満たしません。
また、単なる紹介ではなくても、自分自身の論述が中身がなく、実質的には紹
介と変わらない程度の薄っぺらなものでは、やはりこの条件は満たしません。
従って、自分自身の論述をきちんと展開する予定がない場合には、このやり方
を使うことはお勧めできません。
(もっとも、実際のケースに応じて、個別に検討しないと最終的な判断は何と
も言えませんが)

6、ということで、今回のようなケースでは、面倒でもやはり、翻訳したい情
報がアップされているサイトにひとつひとつあたって、許諾を得ることをする
ことが大事だと思います。
その際、何事も最初が肝心で、こちらのほうで、どういう趣旨・目的で、どう
いう形で利用するのかを明確に説明さえすれば、非営利のまともなサイトであ
れば、かなりの場合は、快諾してもらえるのではないでしょうか(私自身、も
し誰かが、自分のサイトの文を、英訳して転載したいと言って来られたら、基
本的には喜んでOKします)。
そういうサイトとは、長いスパンで、友好関係を築いていくことが重要なこと
が多いと思いますので、慎重にご検討したらと思います。

とりいそぎ。

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